生まれ変わった鼻血ブー

信長正義の現在、過去、未来。

《第六話》アル中の血管とキリンの首

「どこの血管が破れてもかしくないわよ」

おばさんナースはそう言った、

 

電気椅子』から「車椅子」に乗せ替えられて、

長椅子のかみさんがいるところに戻ってきた、

 

まだどこも良くなったわけではないけど、

冷静に見えるかみさんの近くに来れたことと、

入院出来ることにホッとしていた、

 

「どこの血管が破れても不思議じゃないくらいですからね」

処置の合間に若先生も何度かそう独り言のようにつぶやいてた、

 

頭の中でリアルに浮かんできていた「死」から、

少しずつ遠ざかり始めていて、

「今」この時から出来ることをやっていこう

ということに意識が向くようになってきた、

 

おばさんナースはぼくがさっきまで2回失神しそうになったのを知ってて、

「キリンみたいだよね」

と言って笑いながら別の部屋の方へ立ち去っていった、

 

鼻から血を出しただけで救急車で運ばれてさっきまで死にかけて顔からストーンズのTシャツまで血塗れになってる中年男とは言え、

患者は患者で病院にとってはお客様だろう!

 

とは思わないで、

「うまいこと言うな」と感心してしまった、、、

 

ポカンとなっているかみさんに、

武井壮のネタの話だよ」

と説明を始めるくらいにはなっていた、

 

キリンは地面から垂直に長い首をしているので、

心臓の位置から脳に血液を送るのにかなりの圧力を必要とするそうだ、

だから基本的に血圧が高い、

 

『百獣の王』武井壮がキリンと対戦するときは、

 

跳び箱8段を余裕で跳び越える武井が、

キリンの背後から助走をつけて背中に跳び乗り、

首をよじ登っては上から両腕で首を挟んでズリ降りるというのを繰り返し、

そうすると脳にいく血液が滞り脳貧血を起こし血圧が下がってキリンの戦闘意識を奪って武井の勝利!

そう言う話をよれながら夢中で話した、

 

かみさんは笑わなかった、、、

 

救急の出入り口とは反対側の廊下から新しいナースがやってきて、

入院病棟まで連れて行ってくれることになった、

このナースはさっきまでのおばさんに比べても若いわけではなかったけど、

話し方とか立ち居振る舞い?とかすべての所作がナースとしてぼくにとってとても適度で、

マジでかみさんがいたからとかじゃなくて性的にとか全然抜きにして天使だと思った、

 

ぼくが連れて行かれたのは「耳鼻科」の入院病棟で、

天使はそこの看護師さんの詰所みたいなところの脇の廊下で点滴のシャンテをつけて点滴をしてくれて、

かみさんに協力してもらって入院の手続きについていろいろやってくれた、

 

この時おそらく夜中の2時は過ぎてたはずだ、

 

ぼくはそこからかみさんがどうやって帰るのか、

そんな時間にタクシーで帰るのか、

どのくらいの距離をどのくらいの時間をかけて帰り着くことが出来るのか全く想像できなくなっていて、

とにかくかみさんに大変な思いをさせたくなくて一緒に泊まって欲しいと願ったがそれは出来ないらしかった、

 

かみさんは「大丈夫だよ、歩いて帰れるよ」とこともなげに言ったし、

後から考えてみると自宅から区役所までの間の距離で、

普段区役所までは自転車で30分弱で行けるので、

確かにそんなに遠いはずもなかったし全く知らない土地でもなかったけど、

その時は全く右脳が働いていなかったようだ、

 

「危なくない?」

とか言って心配したが、

全くもって問題のない様子だったのは覚えている、、、

 

点滴の管とスタンドが付いたままの車椅子で病室まで連れて行かれ、

二人部屋の入り口側がぼくの居所となった、

 

奥には部屋の先輩患者さんがカーテンの向こうにすでに寝ていらっしゃる様子で、

かみさんたちとやりとりするのに気になったが、

それよりもナースやかみさんと離れるまでに一つ問題があった、

 

考えてみたら風呂あがりからは全く水も飲んでいなかったので、

9時とか10時くらいからは何も口にしていなかった、

お腹は空いていなかったけどこれから喉が渇くことが気になった、

 

「トイレはどうしましょう?」

ナースコールで車椅子で連れて行ってくれるという手もあるらしかったが、

それよりも「尿瓶」を選んだ、

 

左腕にシャンテが入ったので、

仰向けになると右手に点滴棒があってお腹の上に管がある状態になった、

 

「心電図もとります」

簡易型の小さいものだったけど、

両腕と胸とかに複数の吸盤が付いたので線だらけになった、

 

「このライトはつけておきますね」

何かあったらこのナースコールのボタンを押してください、

と言って天使はさがっていった、

 

こんな夜中に嫌な顔一つせず、

態度というか所作というか言葉じりというかオーラというか、

すべてにおいてぼくは天使からストレスを感じなかった、

 

仕事だから当たり前かというとそうではない、

この時から日替わりで数人のナースが入れ替わり担当してくれたけど、

とっても酷いのもいた、

この天使は上級天使だった、

 

かみさんには申し訳ないけど水を何とかして欲しかった、

天使によると一階に自動販売機があるとのことだったが、

部屋を離れたかみさんはしばらく戻ってこなくて、

結局2リットル入りのペットボトル2本を近くのコンビニで買ってきてくれた、

 

かみさんと離れるのは心細かったけど仕方なかった、

かみさんは不安な様子もみせずに帰っていった、

 

しばらくすると隣の先輩が寝返りをうつ雰囲気に気がついた、

せっかく買ってきてくれた水だったがすぐに口にしたくはなかったので眠くなるのを待った、

 

「助けられて生きてるんだなあ…」

ごく当たり前のことなんだけどあらためてそう深く実感していた、

自分でがんばって生きていると思っているもんな、

元気な時は、、、

 

とにかく、

その時「感謝」と「反省」と「祈り」だった、

 

「感謝」はかみさんをはじめ今夜の救急隊員や若先生やおばさんナースや天使や今までの思いつく全員に、

「反省」は主に放置していた血圧の事とか毎日の飲酒だし、

自分でがんばって生きていると勘違いしていた事とかだったし、

「祈り」は鼻血が悪化しない事だったし全身全ての血管がやぶれないようにだった、

特に頭、脳、、、

 

この時には確かすでに『断酒』は誓っていたと思う、

 

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